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『長工大賞』受賞者

 第6回 平成30年(2018年)『長工大賞』受賞

世界最小のマイクロ旋盤の開発
北原 時雄(S31M)
自己写真

『長工大賞』受賞者の功績

 あなたは、母校・新潟県立長岡工業高等学校を卒業後、近未来の機械技術の研究開発に向けて中央大学理工学部を経て東京大学生産技術研究所をはじめ通産省工業技術院の各分野において活躍されました。
 在籍中に開発された『世界最小のマイクロ旋盤』は、その後、技術の研究進化によって「マイクロマシン技術」として花開き、今では「産業・医療・宇宙・福祉・自動車・住宅・環境等」あらゆる分野で利活用が進んでおります。
 そのことは、新時代における豊かな人間生活を実現し地球資源の有効活用及び生産性の向上・省エネルギー化を推進するための「基底」となっております。
 第4次産業革命の序奏「見えざる産業革命」を起こされましたものであります。
 それは正に、「空海のトライボロジスト」であります。
 よって、その功績を讃え、ここに『長工大賞』を授与します。

長工 創立120周年記念誌 令和4年(2022年)10月発行より抜粋

『長工大賞』受賞者の紹介

はじめに

 東京支部のご推薦により身に余る長工大賞を頂きましたことに深く感謝申し上げます。
 私は小学生の頃からの機械好きが昂じて、長工の機械科に進みました。そして3年生の時、クラス担任の今井先生の勧めで材料引張試験の研究に取り組んだことが、機械の研究の道に進むきっかけになったと思っています。職場は、㈱リコー、東大生産技術研究所、通産省機械技術研究所、湘南工科大学と変わり、テーマを変えつつも、50年弱のサラリーマン生活のほとんどを機械の研究に費やしました。
 機械技術研究所に在籍中の1991年に机上に設置可能な超小型工場「マイクロファクトリ」を提案しました。これは、通産省の研究開発プロジェクト「マイクロマシン技術開発」のサブテーマとして、1993年に採用されました。そのマイクロファクトリの実証研究として、1996年にマイクロ旋盤を開発しました。私が行った研究の中で最も注目されたテーマがこの「マイクロ旋盤の開発」でしたので、その概要を紹介します。なお、このマイクロ旋盤は1996年8月8日にNHKの「おはよう日本」で紹介されました。

マイクロ旋盤の仕様と性能

 事前の調査で、マイクロファクトリが実現すると、工場の消費動力は製造する製品にもよりますが、20~80%も減少すると予測されました。一方、機械加工の精度が確保できるかという問題が指摘されました。マイクロ旋盤の開発は、この超小型化による省エネルギー効果と高精度加工の可能性を実証するための研究でした。
マイクロ旋盤
 開発したマイクロ旋盤(写真)は、外形寸法が32mm(長さ)×25mm(奥行)×31mm(高さ)、重量1Nです。
 この旋盤では、送りデバイスに積層型圧電素子を内蔵したインチワーム式直動機構(日、米、EU、中で特許取得)を使いました。主軸デバイスは主軸とDCマイクロモータ(定格出力1.5W、12000rpm)で構成し、これを送りデバイスの上面に取り付けました。刃物台はベースに固定しました。
 この旋盤の諸元を汎用旋盤と比較しますと、外形寸法は汎用旋盤の約1/50、重量は1/5000未満、主軸駆動用モータの定格動力は1/2000未満です。その寸法は世界最小でした。
 この旋盤で快削黄銅を直径1.8㎜に旋削した結果、主軸の消費動力は切込み量0.2㎜、送り量15μm/secのとき1.52Wでした。旋削面の表面粗さと真円度は精密旋盤に近い値になりました。しかし、旋削直径が0.1mm程度になると表面粗さが悪くなってしまいました。
 この点については、日本精工㈱に20万rpmのマイクロ主軸の製作と提供を依頼し、大学に赴任してから旋削実験を行いました。その結果、50000rpmで直径100μmに旋削したところ、研削面とほぼ同等の表面粗さが得られました。

おわりに

 マイクロ旋盤の開発が小型部品製造システムに及ぼした影響は、20年以上経過した現在でも、主な公開情報としては、三協精機㈱が2000年にマイクロ部品の加工・熱処理・洗浄・検査・組立の工程の夫々を同一サイズの小型モジュールに収めたマイクロデバイスの製造ラインを内製、㈱ナノが2001年にA6サイズのマイクロ旋盤を市販、日本精工㈱が2003年A3サイズの研削盤を内製、などが挙げられる程度です。
 しかしながら、マイクロ部品やデバイスのメーカーは現在の生産システムの省エネルギー化が限界に達したとき、そのステップアップの方法として、生産システムの大幅な小型化に取り組むであろうと思っています。マイクロファクトリを提案し、その有効性をマイクロ旋盤で実証した元機械技術者として、そのようなトレンドが生まれることに大きな期待を寄せています。