先輩から
第89弾です。なお今後も定期的に投稿を掲載して行きます。どうぞご期待ください。
第89弾「心嚢ドレナージ」
松永 巌
耳馴れない言葉であるが医学用語である。
心嚢とは心臓を包む袋で水が入って居り、心臓を色々なショックから保護をするものであるが、何等かの原因で必要以上に水が貯る事があり、X線やCTで解る。水が貯り過ぎると心臓を圧迫し、血圧が降下し、心拍数が上昇する。
このため、息切れ、倦怠感等が起き、足に浮腫が生じたりする。軽症の場合は利尿剤が投与され、排尿を増加する事により軽減されるが、重症の場合、管を袋に刺し込んで、吸引する手術が必要で、この手術が「心嚢ドレナージ」と呼ばれて居る。
七月二八日、胸が苦しく、圧迫感があるので、掛り付けの病院に行ったが私の主治医は休診で若いW医師が診て呉れた。X線、心電図を撮って「心不全です。心嚢に水が貯って足も浮腫んで居ます。利尿剤を出しますので、毎朝一錠追加して飲んで下さい」と言われた。薬局で薬を入手し、その場で飲んだ。
心嚢に水が貯ると、体重も増える。毎晩測定するが増加して行くので、筋肉が付いて行って居ると思って居たが、この水の所為であった様だ。
利尿剤の効果か、体重も次第に減少し足の浮腫も殆ど無くなり、これで一先ず安心と思って居たら九月の始め又同じ症状が現れ出した。何時もの主治医に相談したらカテーテルを入れた精密検査するので一〇月六日から二泊三日入院と言うことになった。主治医は以前施行した冠状動脈の点検を含め検査をして呉れたが異状は無く、矢張り水の量が増加して居るとの事であった。結局家内も呼ばれ、このまゝ入院を続け「心嚢ドレナージ」を実施する様勧められ、同意した。
危険度も高いと言う事で、誓約書にサインを求められ、家内と手術の説明を受けた。
手術は心臓に近い脇腹に穴を開け、先端に中空の針を装着した、直径三粍程のビニールの管を途中、腎臓、肺などの臓器を傷付けぬ様に外から操作し心嚢に届かせて水を吸引するのだと言う。吸引の方法は管の手元を凹ませたビニールのボールに繋ぎ、ボールの復元しようとする負圧を利用して吸引すると言う。考えられるリスクは、他の臓器に触れて破損し大量に出血する事、体内に空気や細菌が混入する事、若し心臓を突き破れば一巻の終り。
説明を受け、不安は無いわけでは無いが、それ以外の方法が無ければ俎の上の鯉。主治医を信ずるしか無い。一〇月一〇日一四時、ベッドの儘手術室に搬入された。スタッフに依って準備万全整えられ主治医が入室して来た。「松永さん、始めますよ‼」の挨拶で手術が始った。麻酔はチューブを通す穴の部分のみ。先端が何処辺にあるか解る。時々何かの神経に触れるのか「イラッ‼」とする所もあったが、手術台に居たのは約一時間程度。
「松永さん、終りましたよ‼」の主治医の声に「ホッ‼」とした。出た水は約一立、一瓩、若干血液が混入して居た。主治医はこの血液を心配し二日間何回もCTを撮り観察して居たが出血も止った。肺に掠り傷があったが治癒したと判断、一四日正午管が抜き取られ一五日CT検査の結果異状なく一三時無事退院することが出来た。一〇日間の入院であった。
一八日夜東大の同窓会に出席、最高齢者として開会の挨拶をし夜八時帰宅した。 ニ〇日現在、体温、体重、高低血圧、心拍数総て正常ではある。胸苦しさ、息切れも以前より改善されたが、水の発生源の不明等色々不安はあるが現状ではこれ以上の打ち手は無く成行きに任せて生活して行く他は無い。
2025.10.20


