先輩から
第74弾です。なお今後も定期的に投稿を掲載して行きます。どうぞご期待ください。
第74弾「春 寒」
松永 巌
令和六年(二〇二四)三月九、一〇日第一回「稲畑汀子先生を偲ぶ俳句会」がハートピア熱海で開催された。初日の句会で
春寒を詠み特選を賜れり 朔風
を詠んで稲畑廣太郎先生の御選を頂いた。
翌日朝食の時に、安原葉先生と同じテーブルに付いた。汀子先生が御存命であったら多分御一緒させて頂いたであろうと思い乍ら食事を始めた。会話の中で葉先生から「春寒の特選の句とはどんな句でした?」とのお尋ねがあったので「栃木での句会(第三三回関東ホトトギス俳句大会)の時
一夜明け春寒に馴れ人に馴れ 朔風
と詠んだ句です。」と申し上げたら、葉先生は「あ!思い出しました。窓の外に猿が来た時ですね」と仰しゃって、私も猿の事を想い出した。
この時は大変寒く吟行地に塩原温泉「もみじ谷大吊橋」を渡るのが入って居たのだが寒さと高所に弱い汀子先生は橋を渡らず、橋の袂で椅子に腰掛けて皆の渡って帰るのをお待ちになって居た。
この日の事は汀子先生が平成二九年(二〇一七)八月号のホトトギス「山会」に”お丶寒む”と題して詳細にお書きになって居る。
この御文章の末尾に進藤剛至君と私の事が書かれて居て二人の特選の句も載って居る。
あたたかや最年長とふたり部屋 剛至
一夜明け春寒に馴れ人に馴れ 朔風
そして、その時の会場の様子も詳らかにお書きになって居る。句評の時「人に馴れ」が良かったとのお褒めの御言葉は今でも耳に残って居る。
泊り掛けの句会の時の朝食の時は良く遠くからお呼びになり、隣のお席を頂戴した。
この時もお隣に坐らせて頂いた。すると先生は席をお立ちになり、私にお茶を取って来て下さった。全く恐れ入った次第であった。
私が汀子先生より四歳年上である事に対する御心使いかと今も考えると目に滲むものを感じる。
2024.4.1