先輩から
第47弾です。なお今後も定期的に投稿を掲載して行きます。どうぞご期待ください。
第47弾「フロリダでの想い出」
松永 巌
米国滞在中に友人となったフロリダに住むジャック・カンターと言う男から「君も来年は帰国と言って居たが、帰る前に一度フロリダ
(実際はディズニー・ランドで有名なオランドの近くのココア・ビーチ)に出て来いよ、友人のトム・ハイラーと言う町の発明家も君に会いたいと
言って居るから」と予てから電話で言って来て居た。
帰国の前の一九八〇年八月ブラジルへ出張する用件が出来た。日本からブラジルに行くのは距離も費用も大変だが、アメリカからなら大した
事ではないので、妻も一緒に行く事にした。往復ともマイアミを経由するので、帰路足を伸ばしてオランドに寄り、ココア・ビーチのジャックを
訪ねる事にした。
観光を兼ねて訪ねたマナウスを八月二八日の夜出発し、翌朝五時五分マイアミに着き、乗り換えて八時二〇分オランドに着いた。
空港でレンタカーをして、待合い場所のココア・ビーチのホリディ・インに到着、少し早い中食を取り、ジャックと親しく積もる話をした。
米国人としては小柄で、歳は私と余り変わらないが、髪が殆んどなく、少々歳を取った様に見えたが、相変わらず口は達者であった。
食事が済んで、トムの会社「ロバック」を訪ねた。トムと女性秘書だけの小さな会社であった。トムの発明品を現場で見せて貰ったが、残念乍ら
三菱重工で採り上げる程の物ではなかった。見学が終わって未だ日が高かったので、トムが暫く乗って無かった自家用機に乗るが一緒に乗らないか
と誘った。社則によるとヘリや特殊な乗り物に乗るには会社の了解が必要なのだが、トムの説明では高度も高く飛ぶし、ケネディ宇宙センターの
上空も飛べると言うので、誘惑に負けて乗ることにした。トムが直接妻に聞いたら乗ると言うので、メリット・アイランドと言う自家用機専用の
空港までトムの車に同乗した。ジャックは他に用があるからと言って別れた。
飛行場に着いてトムの飛行機を見た。中古を買ったと言って主翼の一箇所に鳥が当たったのだと凹んだ所があったが未だ新しく見えた。四人乗り
と言う事で、私の想像して居たより大きかった。
いざ乗る時にトムが妻に「本当に乗るか?」と確認をして居た。トムが操縦席、私と妻が並んで後ろの座席。出発! 離陸! トムが「高度を
取って遠くまで行く」と言ってフロリダの南海岸線の解る程上空まで飛んだ。
ケネディ宇宙センターと交信し「許可が出たので今から行く」と高度を下げ、センターを上空から見下ろした。発射台が複数箇所あり、一箇所に
見覚えのあるスペース・シャトルが発射体勢になっていたがトムは「打ち上げの予定は無い」と言って居た。
センターの在る場所は鰐の生息する沼や湿地であるが「鰐が見える位まで低空飛行をする」と言い高度を急に下げた。確かに鰐は確認出来たが、
妻が気分が悪いと言い出した。激しい高度の変化によるものだと思われたが、トムは管制塔に連絡「病人が出たので飛行計画を変更して緊急着陸
する」と言って急いで着陸した。
妻は暫く休んで、直ぐ回復したので、トムにホテルまで送って貰い、お礼を言って別れた。
社則に多少違反はしたが、私としては滞米中の貴重な経験と想い出となった。
二〇二一・九・一五