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先輩から

S20M 松永大先輩が雑誌「ホトトギス」に掲載した中からの投稿です。
第12弾です。なお今後も定期的に投稿を掲載して行きます。どうぞご期待ください。
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第12弾「交通事故」

松永 朔風(巌)

 滞米生活約五年、米国での車の運転は、右側通行、左ハンドル、大型の車体などに戸惑い、まさに事故寸前と言う様な事もあったが、 幸いにも一度も人身事故を起こさず済んだ。
 只一度だけ、残念乍ら動物との事故があった。
 それは昭和54年(一九七九)八月、本社からT常務がシカゴに来た時であった。
 長崎時代からの知り合いで、ゴルフの好きな人であったから、休日近郊のゴルフ場に案内することにした。本来ならハイヤーを頼むべき所 であるが、休日でもあり、T常務も気さくな人で、私が着任した時に購入した社有車の真っ白い大型のクライスラーを私が運転して行く事にした。 T常務も私と話し乍ら行く事が楽しい様でご機嫌であった。
 プレー終了後、土産と称し、ゴルフ場のネーム入りの帽子を十個も買われた。アメリカのゴルフ場は、日本の様な風呂などは無く、ロッカー ルームのシャワーで汗を流し、平服に着替えて、私の運転する車で帰途に就いた。
 シカゴは、エリー湖の辺りにあり、レイクショア・ドライブと言う、湖に沿って南北に走る美しい、見晴らしの良いハイウエイがある。 北からシカゴに入って来る時には高層ビルのシアズ・タワー、ジョンハンコック・ビル、湖に突き出した突堤に立つレーク・ポイント・タワー等 著名な建物が目に入る絶景の場所がある。
 市の北方のゴルフ場からシカゴに向い、この情景が目に入りだし、私が説明をし乍ら走って居たその時である。大型のラブラドール・ レトリーバーと目される茶褐色の犬が、右前方からハイウエイに掛けこんで来るのが見えた。私の右前を走って居た車の前を過ぎたら私の車に 衝突すると直感して、本能的にバックミラーを見た。直ぐ後ろに車が従いて来て居るのが解った。今ブレーキを踏んだら追突されるのは明白。 私はブレーキを踏むのを怺えた。 犬は右前方から私の車の正面に衝突した。車のスピードは約百粁、犬は跳ね返って、左のレーンを滑って道路の外まで飛んだ。
 即死だったと思う。T常務も後部座席から全部見て居て言った。「犬は可哀想だったが、松永君の判断は正しかったぞ」と。プラスチックを 加工して銀の鍍金をしたフロント・グリルは滅茶滅茶に毀れたが、我々は大型犬の衝突の時の大きなショックを受けただけであった。幸いタイヤで 踏んでないから犬の体は破損しなかった様であった。車は保険で修理し元通りになった。
 ハイウエイに入ってきた犬の方が悪いのではあるが、暫くは目の残像が消えず、寝覚めの悪い日が続き、今思い出しても悪寒のする思いである。 在米中の最悪の事故であった。