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《人生の回想》

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第51話 ショートな“失恋小説” (前編)
野﨑(旧姓:椿)敬策(S46e)
 ある日、少年は都会の雑踏から解放され“ひとり”奥飛騨の旅に出た。穂高連峰を背にした川沿いにある一軒の温泉宿に辿り着いた。浴衣に着替えかけ流し露天風呂に浸かり旅の疲れを癒した。夕食は飛騨牛の陶板焼きやアマゴの山椒味噌焼、そして山菜などに舌鼓を打った。飲んではいけない飛騨の地酒でほろ酔い気分に。川音を聴きしばし眼を閉じた。
 就寝前に再度露天風呂へ。湯気の向こうに黒髪の人影が湯船に映っていた。この露天は混浴だった事を知る。身体も温まり浴衣姿で石畳に出ると偶然にも肩より長めな黒髪の女性と眼が合った。何方ともなく湯上りで火照った身体を川音のする川原に出、夜風に身を任せた。いつしか少年とその女性は腰を下ろし、少年の両手が女性の肩に触れていた。好い匂いを漂わせた少し陰のある素敵な女性だった。満天の星が二人を見つめていた。
 翌朝、ロープウェイで展望台まで行き徒歩で奥穂高の山頂を目指した。山小屋までは軽装でも行ける緩やかな登山道だった。吸ってはならない煙草を咥え石に腰掛け景色を楽しんでいると、またもや偶然に遭遇した。眼の前にゆうべの女性が立っていた。暗がりで気付かなかったゆうべ、この山頂で再会したのは年上の綺麗な女性だった。二人で揃って下山した。互いの連絡先を伝え帰路についた。
 二度目の再会は京都の嵐山にあるメキシカンのお店だった。テキーラとメキシカン料理で夜は暮れた。それからは京都の白川、先斗町、祇園などで二人は出逢った。哲学の道を抜け銀閣寺近くのJazz喫茶では二人掛けのロッキングチェアで寄り添いClassic Jazz を楽しんだ。レトロなスピーカーからの音色は最高だった。
 いつしか二人は二度と遭う事はなかった。少年にとって思い出深い出逢いだった。
(編集後記)
 このShort Story はFictionである事を記す。作家気分で書き下ろしてみました。後編に乞うご期待を。